言語聴覚士と歯科衛生士の口くうケア

一口に口くうケアと言っても二種類の職業による住み分けがある。

 

私自分はまったく知らなかった。

 

それ以上に担当ケアマネがこの違いを同一に考えていた言動があり、問題だと思い当人に伝えた。

 

どんな状況だったか。

親が誤嚥性肺炎で退院の際、担当看護師とST(言語聴覚士)より「これより3か月以内にまた誤嚥性肺炎で再入院される可能性があるので、口くうケアは欠かさず行ってください。食事はとろみ付けを行ってください」という内容を口頭で受け取った。

 

親当人は、自分が誤嚥をした原因は入れ歯の調子が悪く、食事のたびに歯が浮いて慌てたため誤嚥した。だから早く入れ歯を治して欲しい、と私に訴えた。その為、この二者の意見をケアマネの伝えた。

 

当時、何年もお世話になっている歯科医Aがあり、その歯科医には、当院に連れてくるのが難しいなら介護タクシーで来てください、という内容だった。そこでその介護タクシーの手配をケアマネに頼んだら、「今介護タクシーはいっぱい予約があって取れないので、知っている歯科医Bが訪問で治療してくれるからそれを頼みましょう」と言う。

ふと、A歯科医は診療の待合室に、訪問対応しますという内容のポスターを見たような記憶があったが、ケアマネの言う通り手配してもらった方がいいかと思い、そのまま頼んでもらうようにした。

 

訪問Bの歯科医は歯科衛生士と共に自宅へ来て説明を行う。
「治療は全部で4日の予定です。口くうケアについては介護保険でうちは現金でこの場で払ってもらうか歯科医院の方へ来て支払してください云々」4日で終わるならとそのまっま頼んだ。

 

予定した日、先に歯科衛生士が到着し口くうケアを始める。車椅子に座ったまま、作業を開始した。


ところが、親がうがいの際、むせた。

「大丈夫ですかー?」と声をかける歯科衛生士。私はこのやり取りを見ていて、危険を感じた。


誤嚥性肺炎で入院していた際、言語聴覚士(STさん)は嚥下訓練を兼ねたとろみ水や食事の際、細心の注意を払っていたように見えた。

 

ベッドの頭を起こす角度は60度。イラストを描いた角度を指定した指示の紙をベッド上部に貼り、スプーンの大きさを指定。一口の食事の量はティースプーン半分程度が最高。むせたら飲食は中止。飲食の時間は20分を超えたら食事が途中であっても中止。そう書かれている。誰が見てもわかる。

 

一口食べさせたら「はい、ごっくんして」
当人の喉仏が上下するのを見届けてよし。そして次の食事をスプーンにとって口に入れる。「はい、おかゆですよ、ごっくんして。ごっくん」


食後、気管支に食事の内容物が入り込んでないか吸引をして、何もなければ、「大丈夫です」

 

それから口くうケア。指に専用のウエットクロスを巻き付け、患者の口の中を指で拭くようにかき出す。口の中を目視して何もないことを確認していた。それから舌苔を専用液とブラシでこする。

 

それから運動である。「あ。い。う。べー」「はい、一緒に言ってね」頬の横をマッサージする。「今日はここまでです」

 

息が詰まる食事風景であった。そのくらい気を使う。一口が命取りなのだ。しかし帰宅したらSTの仕事は私自身の仕事になる。STさんの様子を見てひたすら覚える。

 

急性期の入院中はそんな毎日であった。

なぜ誤嚥したのか気が付いたのは数か月後だが、危険だと思ったのは吐き出そうとしていつもむせたからだ。そしてこの歯科衛生士の「大丈夫ですか」いや大丈夫ではない。ムセが大きい。


しばらく様子をみていて二回目の訪問で尋ねてみた。
「気管支に入った水分を吸引とかしないんですか。携帯の器具とかないんですか?」「そういうことは、しません」
思っていたのと違う!


親の口の中の舌は、一番奥の下の部分の動きが衰えている。「ぱ」「た」「か」の「か」の発音がおかしい。息がもれる音がする。舌の一番奥の筋肉が衰えて「か」がきれいに発音していない。

 

つまり、うがいの水を口から出す際に、喉の奥で上あごにくっついて水を止めていなければならない舌と、上あごの隙間から、少量の水が気管支の方へ逆流して、誤嚥が発生していたのだ。大部分の水は口から吐水して吐き出されるが僅かな隙間が出来ていて気管支の方へ流れて行ってしまう。(これに気が付いたのはこれより数か月後だ)

 

喉の奥のポケットと呼ばれる大さじ一杯分くらいの隙間に残った水分が気管支の方へ流れることもある。そのため空ごっくんとやらを二、三回やらせる、ということもしていた。

 

言語聴覚士のタンや残飯などの吸引行為を、歯科衛生士もやるのだと勝手に思っていた。「口くうケア」と言っているが二者の職業の仕事の違いをはっきり理解していなかった。

これは、急性期から退院した直後の対応として適当だったのだろうか。自分自身、これはおかしいと考えている。


対応を誤れば「うがい」で誤嚥性肺炎をやらかしかねないのだ。
歯科衛生士の口くうケアに「吸引」は仕事に入っていない。

 

ケアマネには、介護タクシーを頼んだのに、ほかの歯科医の紹介をした理由は何か?


このずっと後になるが、最初かかっていた歯科医に聞くと訪問も受け付けていた。しかしタクシーが手配出来ないこと、当人の体力が落ちて連れて得行くのが困難であることなどを告げるとなんと来てくれたのだ。

 

A歯科医がありがたいのは、年寄は体力的に大変だろうといって、来院回数を抑え多くて2回も通えば治療を終わらせてくれる。それからどうしても悪くなればまた半年か一年ほど経ってから、また行くが、やっぱり多くて二回で終わらせてくれる。聞けば当人も付き添いの人も大変だろうからと。まあ実際大変なのだ。

 

訪問治療の際も2回ほどだったか。すぐ終わり。とにかく次々に病院へ行かなければならない病気もちになると一つでも治療が終わり、ホッとするタイミングが欲しい。そういう気分になる。

ところがところが。

ケアマネが紹介してくれた歯科医は腕が悪いわけではないが、なんというかずっと治療が続くのだ。歯科衛生士もずっと続く。
どうもおかしいのでそれをケアマネに尋ねてみた。


4回の説明がもう9回に達している。当人は目の手術をやりたいのに、いつまでも歯の調整が終わらない。イライラして当たるようになる。歯の治療も入れ歯の調整である。いい加減終わらないのか。となった。

結局、こちらの言い分でとにかく終わらせてもらったのだが、歯の治療はいつまで続くと内科に泌尿器、整形外科に外科、皮膚科、眼科と歯科医とどれだけくっつくのだ。なんでもいいからひとつでも終わって欲しい。そういう気分になっていた。

話がそれたが、「口くうケア」のSTと歯科衛生士の違い。
計画して勧めてくれたケアマネは知っているのか?


歯科衛生士の主な仕事は歯茎や歯の掃除などでこれは「口くうケア」といっても誤嚥性肺炎に対してはあくまでも「予防法」で有効と考えられる措置になる。口の中を綺麗にすることは誤嚥の予防になると考えられる。つばを誤嚥する人もいるから、ということらしい。


言語聴覚士の主な仕事は上半身全般のリハビリなどで「口くうケア」といっても誤嚥性肺炎に対しては、なってからの「対処法」で有効と考えられる措置になる。だからリハビリをやって飲み込む力をつけ、食べられる呑み込められるようにするのだ。

 

仕事の内容が違うのだ。

私自身、この差があるのに知ったのは、歯科衛生士と言語聴覚士両方の利用をしてみて、ようやくはっきりと分かったのだ。

 

その後、骨折してまた入院し、同じく世話になったSTにまた顔を合わせるのだが、その少し前に耳鼻咽喉科誤嚥の診断をしてもらいに受診していた為、「ちゃんと来院されたんですね」などと声をかけてもらった。

それから、転院先のリハビリ病院でみっちりリハビリしたのだがそこでもSTさんのリハビリを受けた。
北原白秋のあめんぼ・・などをしゃべる訓練、そして額に手を押し当ててそれに対して抵抗して頭を支える訓練、首筋のマッサージ、長く声を出す訓練。どろどろのミキサーとろみ訓練食からとろみをかけた刻み食になり、一口大のやわらかおかずになり、ほぼ普通食まで引っ張り上げてくれた。STのリハビリはすげー!!
当人の頑張りもすごかったが。これでミキサー食作りとミキサーを洗う家事手間が大幅に減る。とろみ材の費用も減る!
良かった、助かった。

 

見ていると正直かなり恐ろしいリハビリ。いつ誤嚥してむせて、とならないかとひやひやしてしまう。安心していられるのは誤って気管支に入っても吸引してくれていたからだ。

 

歯科衛生士は歯や歯茎の隅々まで綺麗にしてくれる。
STはそれはしない。ざっと拭くだけ。

同じ口くうケアの名称だったので同じ内容と勝手に思っていた。仕事の範囲も目的もまったく違うのだ。

 

ケアマネはなぜ歯科衛生士の口腔ケアを勧めたのだろうか。

 

親の誤嚥性肺炎の急性期病棟の退院後のリハビリに欲しかったのは言語聴覚士だった。どこから歯科衛生士になったのか。入れ歯の話があったので一緒にされたのだろうか。

 

まさか、知らなかったんじゃないよな。
歯科衛生士に支払った分は親の状態から考えるに不要だったのではないかと思う。