退院して一年後その2

元号は令和であります、というニュースを見た。親はすぐ私に聞いたのは「おい、令和のレイはLか?Rか?」であった。

「はああ?」自信が無くてネットで検索するとRらしい。
「やっぱりRみたいだよ」と言うと
「年齢のレイの横のやつか、あれは書きにくい!!」
知らんがな。

あっという間に平成が令和になるのか。あっという間に人生の時間が過ぎ去っていく。たくさんのことがあって、それでもあっという間な気がする。100歳のおばあちゃんが100年はあっという間だったと言っていたがその通りかもしれない。

隣でご飯をゆっくり咀嚼しながら食べている横顔の頬のあたりの筋肉の動きを眺めていた。ちょうど耳の付け根の頬骨のあたりから顎にかけての筋肉が動く。いち時期はげっそりや褪せて噛むための筋肉が見当たらなかったくらいだったが、今はしっかり確認出来る位盛り上がり咀嚼をしていた。

胃癌のため三分の一の胃の為に柔らかくなるまで噛み続ける。一年半前にご飯が口から零れ落ちていたが、今それはない。誤嚥性肺炎に懲りて毎日口くうケアと口の体操を続けている。たまに忘れるときがあるがほぼ毎日やっている。STから教わった額を下向きに押す訓練も、発音訓練も時々サボるが忘れずにやる。首筋のマッサージも私が忘れなければやる。時々忘れるがまあ継続してやるように努めている。今のところ熱やムセはない。

体重は一年前は35キロ少しだったのが今は40キロ少し。
胃癌で手術する前は48キロだった。もともと痩せていたので二割は体重が落ちると言われ40キロを割らないよう必死に食べていた。それが肺炎であっさり割り込んでさらに骨折して痩せてしまい、お尻の肉も無いに等しいほどがりがりになっていた。入院しているとどんどん痩せていく。栄養士が建てた献立だし間違いがないと思うのだが、やはり痩せると本人も落ち込んでしまうようで、リハの人を捕まえてはこんなに痩せた、と訴えていた。今は本人も体重が戻ったせいかいくらか機嫌がよく前向きになっている。

 

早々に退院して自宅に戻ってから少しずつ少しずつ体重が戻ってきて、一か月に一キロづつ半年で入院前の体重に戻ってきた。胃を取った前の体重に戻るのは厳しいようだが、それでも肺炎の入院前まで戻ってきたのは良かったと思う。一般の食事に近いものを食べれるようになり、歩行器で室内を移動できるようになってきた。最近は口くうケアを自分でやるようになった。
もっとも起用には出来ないので時々仕上げは私がやる。

口くうケアのやりかたも一年前と比べるとかなり変わった。最初は専用のウエットティッシュを指に巻き付けそれを口の中に入れて歯茎などの回りを拭き取っていた。舌苔はモアブラシを使い舌を三回ほどこすり苔を取り除いた。そのブラシでついでに頬の内側のマッサージもやった。唾液の出やすくなるところをマッサージしてやると苔が付きにくくなるらしい。これを毎食後行った。初めは本人が出来なかったので私がやっていた。それから数か月、本人がやるというので見守りながら続けた。

それを退院してそろそろ1年たつ。口くうティッシュは退院後半年程度でやらなくなった。ぶくぶくうがいが出来るようになったからだ。体重の減少と同時に口の周りの筋肉も落ちていたが、次第に回復した。
誤嚥の肺炎の退院後に耳鼻咽喉科で嚥下の検査をした。その時はごっくんした際に喉の途中に試験ゼリーが残っていた。話を聞くとどうも喉の途中に大さじ一杯分くらいのポケットが喉の奥にあって、喉仏がしっかり上下しないとそこに留まって胃に流れないらしい。肺に行くと危険なので空ごっくんを二三回やるよう注意を受けた。今検査をしに行ってないが、どのくらいの力が今あるのか検査しに行ってみたいくらい、自然にごっくんしている。調子に乗るといけないので食事中、テレビやおしゃべりに夢中になっているときは注意をする。

 

最近は自宅のお風呂に入るのが目的である。リハビリをしてくれるOTPTさんにお風呂に入るために足のストレッチや座って風呂桶のエプロンをまたぐ訓練をやっている。神経痛がひどいのだがお風呂で温まると痛みが改善されるらしくて、どうしても入りたいらしい。デイサービスでは時間が決まっているうえに体温や血圧がちょっと高いと入れてもらえないし時間が短いため不満があるらしい。本人はお風呂は痛みを緩和できる治療なのだ。とにかく一生懸命にやっている。病院のリハビリの歩いたり手の動きのリハなどはかなりいい加減にやっていたくせに風呂のリハビリだけは別らしい。顔がもう真剣で真面目にやっていた。

 

褥瘡になりかけていた仙椎と足の踵のところも今はたまに赤くなっているくらいで褥瘡になってはいない。入院中はエアーベッドだった。退院してからは介護保険マットレスを借りた。エアベッドは寝っ放しはいいが寝返りを打ちたいときには柔らかすぎてかえって良くないらしく、褥瘡予防のベッドマットレスの特に柔らかいを使っていたが今は予防のソフトに変更してもらった。睡眠時無呼吸で唾を飲まないよう横向きで寝させるためだ。横向きにしておいても夜中におむつ替えするときにはもう仰向きになっているので勝手に寝返っているらしい。

褥瘡というのはねだこの事だ。寝たきりだと褥瘡ができる。だんだん下の骨まで見えるようになり肉が無くなる。毎日水をかけて洗うことになる。本人にネット上の褥瘡の写真を見せたらうわーと言って固まった。寝たきりは寝っ放しで楽ちんだと思っていたらしい。

 

筋肉は年をとっても鍛えることが出来ると90代のお爺ちゃんがテレビで話していたが、そうかもしれない。継続は力なり、だと思った。